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2025.09.09

目指せベストボディ!小栗織物 三代目 小栗剛さん

タグ:#職人

静岡県浜松市で三代続く小栗織物株式会社の家に生まれた、小栗剛さん。

織物と聞くと、もしかしたら少し堅苦しいイメージがあるかもしれません。
でも、小栗さんの日常は、そのイメージを軽やかに超えていきます。

小栗さんを一言で表現するなら、「ゴリゴリの筋肉愛好家」
日々の仕事と同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上(?)に、
筋トレに情熱を注ぐ作り手です。

      365日ジム通いの小栗織物三代目

      小栗剛さん
          
        名前 小栗 剛(おぐり つよし)
        生まれ 1987年 静岡県浜松市生まれ
        扱う工藝品 遠州織物
        好きなこと ・筋トレ
        ・地元の友人と遊ぶこと
        功績・受賞 ボディメイクを競う大会に出場

        元商社マンが織物業界へ。30歳を目前にした人生の転機。

        小栗さんのこれまでの歩みは、決して王道ではありません。
        生まれも育ちも浜松市ですが、大学進学を機に愛知県へ。
        卒業後は建築関連の商社でサラリーマンとして働いていました。

        だけどその仕事は小栗さんにとって、どこか”しっくりこなかった”のだそう。

        そんな小栗さんが織物業界に足を踏み入れたのは、29歳のとき。
        30歳を目前に控えて、将来を考え始めた頃でした。

        ちょうどその頃に、初代であるおじいさまが亡くなり、久々に実家へ戻った際、
        二代目であるお父さまに相談したことがきっかけで、家業を継ぐことを決意を固めます。

        もともと継ぐつもりはなかったんです。だから、ドラマチックな話は全然なくて(笑)。ただ、自分の今後をどうしようかなって考えたときに、ふと『衣・食・住』の『衣』の部分を担っている織物なら、今後も需要がなくならないだろうな、という打算的な考えがよぎって

        ——そんな率直な言葉に、小栗さんの飾らない人柄がにじみます。
        けれど、その裏には人生に真剣に向き合った決意が確かに込められていました。

        想像通りの”古さ”に心を奪われました

        機織
        提供:小栗織物株式会社

        織物業界に入った小栗さんが最初に抱いた感想は、イメージ通りの“古さ”。

         

        初めてこの世界に入った時の第一印象は、『こんな古い織機まだ使ってるんだ』でした。
        でもよくよく考えたら、これだけ古い織機を使っているからこそ、
        昔の時代のものと全く同じものが作れるんだ、ということに気づいたんです。

         

        最新の機械なら効率や品質は上がるはず。でも、古い織機でしか出せない“当時の味わい”がある。小栗さんはそこにこそ、この仕事の価値を見出したのです。効率やスピードだけでは測れない、“伝統”の意味を体感した瞬間でした。

        織物の翻訳家?布を分解するという仕事

        小栗さんが代表を務める小栗織物株式会社は、”産元(さんもと)”と呼ばれる、織物の中間業者。依頼を受けた生地を職人に発注し、仕上がったものを納品する、いわば「織物業界の仲介役」です。

        小栗さんが日頃やりとりしている職人さんたちは、平均年齢が60?70歳とベテラン揃い。
        新しい技術や情報発信は得意ではない世代だからこそ、小栗さんがその間を繋ぐ重要な役割を担っているのです。

        その中でも特に印象的だったのが、新規の注文時に行われる”生地の分解作業”。

        お客さんから貰った布の切れ端を、ルーペを使って縦糸や横糸の本数を数えるんですよ。この作業は全部アナログです。糸の太さや素材まで見極めて、作り手さんに分かりやすく伝えるための『設計図』を書くんです。慣れちゃえば1時間くらいで終わりますね。

        機織
        小栗さんが実際に使っている道具 提供:小栗織物株式会社

        布をそのまま渡すのではなく、糸の本数や柄の繰り返しを“翻訳”して職人に伝える。まるで布の遺伝子を解読するような工程です。

        お客さんから『これと同じものを作って』と切れ端をもらって、それをそのまま機屋さん(職人)に丸投げすることはしないんですよ。もちろん機屋さんもやろうと思えばできるのですが、彼らの仕事は織ることですから。

        前職の経験が思わぬ壁となった話

        前職の経験が今の仕事に活かされていることはありますか?と伺ったところ小栗さんからは意外な答えが。

        建築業界では1尺が約30cmの『曲尺』を使うのですが、繊維業界では1尺が約37.9cmの『鯨尺』というものを使うんです。この業界に入ったばかりの頃、『1尺でお願いします』と言われたときに、前職の知識が邪魔をした、という経験があるんです(笑)

        この1尺(37.9cm)は、一般的な着物の幅の基本的なサイズ。この幅と長さ約13mで「一反(いったん)」と数えられ、着物が一着作れる企画サイズ。

        昔の人の体格に合わせて決められた基準で、現代では少し合わない部分もあるそうです。

        伝統を日常に取り入れてほしい。その想いから生まれた新ブランド

        従来はBtoBが中心だった小栗織物ですが、小栗さんは以前から消費者向け事業にも挑戦したいと考えていました。

        そんな中で、コロナ禍の補助金をきっかけに、令和4年には自社ブランド「LOMONO」をわずか1年足らずで立ち上げたのです。

        一番カジュアルに使ってもらえるものは何かと考えたら、僕の中ではTシャツだったんです

        小幅織物*でTシャツを作る事例は見当たらず、その独自性も追い風になりました。

        LOMONOのTシャツは、浴衣や手ぬぐいに使われる遠州の小幅織物を使用。和装用の生地をオーバーサイズの布帛Tシャツに仕立てることで、日常に溶け込むアイテムへと生まれ変わらせました。

        とはいえ、立ち上げ当初は苦労の連続だったのだとか。
        特に、パターン(型紙)すらない状態からのTシャツ製作は、まさにゼロからのスタート。小栗さんの本業は”布を扱う”ことだけで、その布を製品の形にする”縫製”の経験は全くありませんでした。

        どれくらいかかったか覚えていないんですけど、半年はかかりましたね。
        慣れない作業で、かなり時間がかかりました

        それでも”一度作ろうと決めたからには”と最後までやり遂げられたのだとか。

        この挑戦の裏には、古い体質の業界を盛り上げたいという強い思いがありました。
        新しいことを受け入れることに疎いベテランの職人さんたちにTシャツ製作を提案した際も、「ああ、そうかい」と、最初はあまり興味を持ってもらえなかったのだそう。

        今の職人さんたちは、スマートフォンの操作で精一杯な世代で、自分たちから発信することが非常に弱い。だからこそ、中間業者である僕が間に入って、その方々の魅力を伝える役割を担いたいんです。

        Tシャツという身近なアイテムを通じて、遠州織物の魅力をより多くの人に届けたい。
        その情熱が、小栗さんを動かす原動力になっています。

        *
        小幅織物:主に浴衣や手ぬぐい、着物などの和装に使われる、巾が狭い(主に60cm程度まで)織物のこと

        仕事以外は筋肉100%の生活

        そんな小栗さんの日々のルーティンは、朝5時起きから始まります。早朝に事務作業や倉庫整理を済ませ、日中は取引先を訪問。そして夕方になると、小栗さんのもう一つの顔が。

        それは、”筋トレ”

        ほぼ毎日、仕事が終わるとジムに直行し、1時間ほどトレーニングに励みます。

        健康に気を遣い始めたら、いつの間にかハマってしまいました(笑)

        そのストイックさは筋金入り。
        実は先日、ボディメイクを競う大会にも出場し、
        惜しくも入賞は逃したものの、10人中6位という好成績を収めたと教えてくださいました。

        SHAMIDAMA

        食事も筋肉ファーストで、鶏むね肉が中心。(調理法は”焼き”が好きらしい)
        休みの日は筋トレに加え、地元の友人たちと遊ぶことも多いのだとか。

        浜松の名物に。小栗さんの描く夢

        浜松市でどんなイメージありますか?って言ったら、鰻とか静岡のお茶とか、浜名湖ですよね。その中に遠州織物を組み込みたいんです。

        小栗さんの目標は”遠州織物のブランド力を高めること”。

        遠州織物って言ったときに、みんなが良いものの認識を持ってもらいたいなって。
        今、いいこと言いましたね、僕ね。(笑)

        そう言って照れ笑いを浮かべた小栗さん。
        伝統を未来につなごうとする行動力と、その日々を支える筋肉。

        一見すると異色の組み合わせですが、
        その情熱が遠州織物の新しい扉を開いていくかもしれません。

        小栗 剛さんの商品を見る

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