甲州印伝とは?その歴史と魅力

鹿の革に漆で文様をのせた「甲州印伝(こうしゅういんでん)」、ご存知ですか?
実はこの工芸、400年以上もの歴史があるんです。
手に取ると、しっとりと馴染むやわらかさと、光の加減でふっと浮かび上がる漆の艶。
その独特の質感は、昔から多くの人に愛され続けてきました。
今回は、そんな甲州印伝についてご紹介します。
鹿革と漆が織りなす、やわらかな強さ

甲州印伝は、鹿革に漆で文様をのせる
日本独自の革工芸。
しっとりとした手ざわりと、ぷっくりと浮かぶ
文様の立体感。
その質感は、革が柔らかく、
手に馴染むほどに味わいを増していきます。
印伝に使われる鹿革は、軽くて丈夫。
そしてとても柔らかいのが特徴です。
漆の文様を重ねることで、
美しさと耐久性を兼ね備えた素材に。
手仕事によって仕立てられた印伝は、
”使うほどに育つ”—そんな工芸品の1つです。
甲州印伝のはじまり
甲州印伝の起源は、なんと奈良時代にまで
さかのぼるといわれています。
当時、鹿革はその丈夫さと柔らかさから、
武具や鎧の素材として重宝されていたのだとか。
戦国時代には、燻べ(ふすべ)や更紗(さらさ)といった技法を用いて、鎧や兜、装飾品などにも用いられるように。
「印伝」という名前が広まったのは江戸時代。
寛永年間(1624〜1643年)に外国から「印度(インド)装飾革」が献上され、それをもとに日本で作られた革細工が“印伝”と呼ばれるようになったといわれています。
江戸後期には、現在の山梨県甲府市を中心に産地が形成され、滑稽本『東海道中膝栗毛』(1802年)にも「印伝の巾着を出だし、見せる」といった記述が残っているそう。この頃にはすでに、印伝は人々の暮らしに身近な存在となっていたようです。
使い込むほどに味がでる—それが魅力のひとつ
甲州印伝の魅力は、使うほどに変化していくその姿。
新品の印伝は少し固く感じることもありますが、
使い込むほどに手に馴染み、革の質感がしっとりと柔らかくなっていく。
漆の文様は時間とともに落ち着いた光を放ち、深みのある艶へと育ちます。
それは、持ち主の手のぬくもりや暮らしの時間が、少しずつ革に染み込んでいくから。
10、20年と長く使い続ける人の中には、
修理を重ねながら大切に使い続ける方も多いのだそう。
かつては和装小物や巾着が主流だった印伝ですが、いまでは財布やバッグ、印鑑ケースなど、
そして最近ではポケモンやミャクミャクなどのキャラクターのデザインのものが誕生したりと
現代の生活に合う形へと進化しているんです。
伝統を守りながらも、今の暮らしに寄り添う——。
甲州印伝は、使う人とともに育ち、時代を超えて受け継がれる存在なのです。
参考