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2025.10.01

【知ってましたか?】江戸切子の文様に込められた願い ― 「菊繋ぎ」の持つ深い意味と輝き

江戸切子

江戸時代に誕生した伝統工芸、江戸切子。
ヨーロッパのカットグラスの技法を取り入れながらも、日本ならではの美意識を映し出し、庶民の日用品として親しまれてきました。
吹きガラスの生地に、職人の手でひと筋ひと筋刻まれるカット。

その積み重ねが、光を受けるたびに華やかにきらめくガラスを生み出すのです。

江戸切子には「魚子(ななこ)」や「八角籠目」など、約二十種類の伝統文様があるんです。

実はそれぞれの文様には、ただ美しさを追い求めただけではなく、人々の願いや祈りが込められています。

今回は、その中でもとりわけ緻密な、**「菊繋ぎ(きくつなぎ)」**をご紹介します。

「菊繋ぎ」の文様と、長寿への願い

縦・横・斜めに走る細かな直線を組み合わせ、菊の花が連なるように見える「菊繋ぎ」。
日本では古来より菊は「邪気を払う花」「長寿の象徴」とされてきました。
 

そこに「繋ぎ」という形が加わることで、「不老長寿」や「縁が途切れず続く」という願いが表されているのです。

さらに「きく」を「喜久」と書き換えれば、「喜びが久しく続く」という意味にもつながります。

贈り物や記念品として選ばれる際、この言葉を知っていると、より一層特別な輝きを感じられるのではなでしょうか。

職人技が映し出す、緻密で繊細な輝き

菊繋ぎの魅力は、意味だけではありません。
細やかで均整のとれたカットを施すには、途方もない集中力と高い技術が求められます。

緻密さ:一本の線の深さや角度がわずかにずれるだけで、文様全体の印象が崩れてしまう。だからこそ職人は、息をひそめるようにカットの交点を合わせていきます。

難易度の高さ:特にグラスの曲面に施す場合、均一なカットを保つのは至難の業。その仕上がりこそが、熟練の証といえるでしょう。

こうして刻まれたカットは、光を受けるたびに反射し合い、江戸切子らしいキラキラとした万華鏡のような輝きを放ちます。色被せガラスに施されれば、透明に抜けた部分と残る色とのコントラストが重なり、さらに奥行きある美しさを楽しむことができます。

受け継がれる願いと輝き

職人たちは、完成したグラスを手にした人の笑顔を思い描きながら、ひと筋ひと筋に魂を込めています。
「菊繋ぎ」は、ただの装飾ではなく、長寿や喜びが絶え間なく続くようにという祈りの象徴。
それは今も昔も変わらず、人々の暮らしをそっと彩り続けています。

江戸切子のグラスにそっと光をかざしてみると、そこに込められた願いが、きらめきとともに浮かび上がってくるのではないでしょうか。

 

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