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2025.10.12

親から子へ受け継がれる“お守り” ― 江戸木目込人形

提供:柿沼人形


親から見ると、それは玩具ではなく、かけがえのないお守り。

子どもの健やかな成長や健康を願い、人形に想いを込めて贈る――。

そんな日本ならではの風習が、今からおよそ270年前に生まれた
江戸木目込(えどきめこみ)人形のはじまりなんだとか。

日本では古くから「人形には魂が宿る」と信じられ、木目込人形もまた、
災いや病から子を守る厄除けの象徴として親しまれてきました。

節句の贈り物として生まれたその小さな人形は、親が子に託した愛情の証として、
時を越えて受け継がれています。

今ではポケモンやミッフィーといった人気キャラクターとのコラボレーションによって、
伝統を守りながらも現代に沿った新しいかたちへと生まれ変わっています。

時代に合わせて表情を変えながらも、その根底にある“祈りの心”は変わらない。

節句人形の枠を超え、インテリアとして、
また日々の暮らしを彩る小さなお守りのような存在として、多くの人の心を惹きつけています。

今回は、そんな江戸木目込人形についてご紹介します。
 

江戸木目込人形のはじまり

江戸木目込人形のルーツは、京都・上加茂神社に仕えていた高橋忠重という人物にあるのだとか。

元文年間(1736〜1741年)、彼が祭礼用の道具を作る際に余った柳の木で人形を彫り、
神職の衣裳の残布を“きめこんで”仕上げたことが始まりとされています。

当時は「加茂人形」や「柳人形」と呼ばれ、素朴ながらも上品なその姿は人々の心を惹きつけました。

この技法がやがて江戸に伝わり、江戸の粋な感性を取り入れた「江戸木目込人形」として発展するのです。

京都の人形がふくよかで穏やかな表情をしているのに対し、
江戸木目込人形は細面で目鼻立ちがはっきりしており、どこか凛とした印象を与えます。

その違いこそが、京都と江戸の美意識の違いを映し出しているんだそう。

技の進化と、受け継がれる手仕事

明治後期になると、江戸木目込人形の製作方法に大きな変化が。

それまでの木彫りの胴体に裂地を貼る方法から、
桐の粉と糊を混ぜて固めた「桐塑(とうそ)」を型抜きして成形する技法へ。

この革新により、軽くて丈夫でありながら、
より繊細な造形が可能になり、多彩なデザインの人形が生まれるようになったのだそう。

やがて昭和の時代には、江戸木目込人形は全国に広まり、
1980年代には経済産業大臣指定の伝統的工芸品として正式に認定。

そうして今日まで、時代に合わせて少しずつ形を変えながらも、
その手仕事の本質は変わることなく受け継がれているのです。

現在、江戸木目込人形の主な産地は東京都内と埼玉県。

東京では台東区・墨田区・荒川区などを中心に、職人たちが一体一体、心を込めて人形を仕上げています。

また、埼玉県越谷市には、伝統工芸士・柿沼利光氏(柿沼人形)の工房があり、
長年培われた技を守りながらも、現代の暮らしに寄り添うデザインを追求しています。

“昔ながらの美しさ”を大切にしながら、新しい感性を取り入れる。
その柔軟な姿勢こそが、江戸木目込人形が時代を超えて愛され続ける理由のひとつではないでしょうか。

江戸木目込人形ができるまで

「木目込(きめこみ)」という名前は、衣裳の境目やひだの部分に細い溝を彫り、
そこに布を“きめこむ”作業に由来しているんです。

“きめこむ”はもともと「極めこむ」と書き、ぴたりと隙間なく入れるという意味。
その言葉の通り、どの工程にも職人の繊細な手仕事が息づいています。

主な工程は8つ
❶原型
人形のイメージが決まり、デザインができあがったら
それにもとづいて粘土で、木目込人形の原型となる塑像を作ります。

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❷バリ取り
抜き取った素地を乾燥させ、バリというはみ出した部分を削ります。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❸補修
乾燥によるひび割れや凹凸を、”桐塑”で補足したり、やすりで補修し、ボディを仕上げていきます。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❹面相書き
人形の顔形を書きます。
表情は木目込人形の良し悪しを左右するポイント。
だからこそこの工程は木目込人形の上でとても重要な作業になるのだとか。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❺胡粉塗り
表面を平らにした素地の上から液状にした胡粉を塗ります。
この作業が素地を引き締めることと、臼井色の衣裳地を木目込んだときに
素地の色が透けてでるのを避けるのだそう。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❻木目込み
ボディの溝にそって糊をいれ、型紙からとった衣裳となる布地を、目打ちやへらを使って
木目込んでいきます。木目込みは本物の衣裳を着せるように、
下着から上着、袴、帯の順に決め込んでいくのです。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❼彩色
胡粉を筆で盛り上げ輪郭を描き、漆を塗っていきます。
乾かないうちに漆の上に純金箔をのせて、その内側に色をのせていきます。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形

❽取り付け
最後に仕上げたボディに、向きや角度を考えながら、
頭や手を取り付けて木目込人形を仕上げます。

 

江戸木目込み
提供:柿沼人形
 

参考:
Traditional Crafts of Tokyo
柿沼東光ホームページ


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