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2025.11.05

折れず曲がらずよく切れる―関の刃物の800年の歴史

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岐阜県関市は、ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並ぶ、世界三大刃物産地のひとつとして知られているのをご存知ですか?

その根底にあるのは、800年にわたる「技と心」。
そして時代を恐れず新しい技術を取り入れる革新の精神。

今回は、岐阜県関市から生まれ、世界に名を馳せる刃物の魅力をご紹介します。

 

鎌倉時代より受け継がれる伝統技

関の刃物づくりの歴史は、鎌倉時代にまで遡ります。
戦乱の世を逃れた刀匠たちが、刀づくりに欠かせない
良質な「焼刃土」「水」「炭」を求めてこの地にたどり着いたのが始まりだったのだそう。

やがて、関鍛冶の祖とされる元重(もとしげ)と金重(かねしげ)がこの地に住みつき、
刀鍛冶の里としての歴史が幕を開けるのです。

室町時代には「関伝(美濃伝)」と呼ばれる独自の鍛刀法が確立され、
多くの名刀が生み出されました。

なかでも「四方詰め(しほうづめ)」と呼ばれる技法で鍛えられた関の刀は、
その切れ味の良さから「せきカミソリ也」と公家の日記に書き記されるほど評判となったのだそう。

そして名工・関の孫六兼元や志津三郎兼氏をはじめ、
数多くの名匠がこの地から生まれました。

こうして関は、日本刀の五大流派のひとつとして名を連ね、
今に続く“関の刃物文化”の礎を築いたのです。

武具として、持つ人の精神を映す鏡として

関の刃物づくりの根底には、古くから日本刀に込められてきた理想の姿、
「折れず、曲がらず、よく切れる」という三拍子の理念が息づいているのだとか。

日本刀は、単なる武具ではなく、持つ人の精神を映す鏡とも言われてきました。
その精神は、現代の刃物づくりにも確かに受け継がれてるのです。

鉄、水、松炭、焼刃土。

これら四つの素材を一体にして鍛え上げることで、強靭で美しい刃に。

さらに、研師や鞘師、柄巻師など、
専門の職人たちの手を経て一本の刀が完成するのです。

中でも土取り(土置き)と呼ばれる工程では、刀匠の感性が波紋となって現れ、
まさに“作品”と呼ぶにふさわしい仕上がりに。

武器としての役割を終えた今もなお、刀匠たちは「玉鋼(たまはがね)」を使い、
伝統の技を磨き続けています。
そこには、800年の「技と心」を守り抜く強い誇りが息づいているのです。

職人が仕上げる最高の切れ味

関の刃物産業は、伝統を守りながらも、時代の波に柔軟に寄り添い進化を続けています。

包丁やナイフ、ハサミはもちろん、医療用メスや工業用刃物に至るまで、
関の刃物は、今やあらゆる分野で活躍しているんです。

近年ではAIやロボット技術の導入によって、高精度な機械加工と伝統技術の融合が進み、
その品質はミクロン単位の世界にまで。

とはいえ、どんなに機械が進化しても、
最後の仕上げには人の感覚と経験が欠かせません。

“切れ味”の最終判断を下すのは、800年の知恵を受け継ぐ職人の目と手なのです。

現在の関市では、後継者育成にも力を入れており、
若い技術者たちが伝統の技を学びながら、コンピュータ制御の現場でも活躍しています。

変化する時代の中で、関の刃物づくりはこれからも進化を止めることなく、
“人の暮らしを豊かにする切れ味”を世界へ届け続けていきます。

参考:岐阜県関刃物産業連合会


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